今日は一日外来でした。
手術の申し込みは、白内障3人と霰粒腫1人(2歳女の子)でした。
今日は白内障術後の見えにくさの相談が2件ありましたが、一人は50代の男性で3年半前に多焦点レンズの白内障の手術を受けたものの、緑内障のある左眼が見えにく、乱視を矯正するトーリックレンズがズレていると言われて、なんとかできないかと来院されました。
白内障手術での乱視の矯正は乱視を打ち消す成分の度数を持ったレンズ(トーリックレンズ)を使うことで、理論上、ある程度、乱視を減らすことは可能です。しかし、言葉で言うほど簡単ではなく、思ったより乱視が減らないということもあります。
その理由は、まず角膜の乱視の検査が難しく、適切なトーリック度数を選定することが難しい面があります。それから、トーリックレンズの度数は0.75D刻みなので、そもそもピッタリ、ゼロになるトーリックレンズがあることは滅多にありません。そして、乱視には軸(方向)があり、この乱視の軸にトーリック眼内レンズの軸を合わせる必要があります。この軸が1°ズレると、トーリックレンズの乱視矯正効果は約3%減るといわれ、30°ズレるとトーリックの効果はほぼなくなるとされています(ちなみに、軸が90°ズレると、反対方向の乱視が増えることになるので、術後の乱視が理論上、倍になってしまいます、、、)。更に、手術の時に眼に切開を入れると、これによっても角膜のカーブが変わることがあります(惹起乱視)。術者によりある程度、その変化の値の数値が固定されてきますので、その値を踏まえてトーリックレンズの計算をしますが、眼によっての固有差もあり、不確定な要素の一つでもあると思います。
トーリックの度数が弱くて、レンズを入れ換えて強い度数に変えることも可能ですが、切開やレンズの取り出しにより、角膜乱視が増えることもあるので、実際には中々、難しい面もあり、単に乱視を減らすことを目的にするならば、レーシックの方が確実かと思います。
乱視が残った原因がトーリックの軸が合っていないのであれば、レンズを回転させて軸を合わせることで、乱視をよくすることができるかもしれません。ただ、この患者さまの場合、軸のズレは10°程度で、その割に乱視が多く残っているので、単に軸の問題でもなさそうですし、YAGレーザーもしていて、後嚢もないので、そもそも軸修正が難易度が高い可能性もあり、手術で入れたレンズのトーリック度数など、よく吟味して、どのような治療をすることが適切か考える必要があるかと思いました。
いくつかの理由で、白内障の手術でトーリックレンズを使っても、“思ったより乱視が減らない”という事態は起こり得ます。もちろん、乱視は必ずゼロにしないといけないものでもないですし、ある程度の乱視は焦点深度を深める働きもあり、乱視のおかげで広く見えることもありますので、乱視が必ずしも“悪”ではないですし、治療することで改善が望めるのかをよく考えた対応が大切だと思います。