今日は午前が外来で午後は手術でした。
手術の申し込みは、白内障3人で、今日の手術は、白内障14件(iStent併用2件)と硝子体出血(網膜前出血)の硝子体手術1件でした。
今日、外来を受診された40代後半の女性の方は、他院で狭隅角症と診断され、手術の相談目的でいらっしゃいました。隅角というのは、角膜と虹彩から作られる部分で、眼の中の水(房水)が眼の外に流れ出ていく場所で、この隅角が狭い状態が狭隅角です(前房という眼の前の部分も浅くなるので浅前房と表現されることもあります)。狭隅角は眼の小さい人に見られやすく(実際の見た目の眼ではなく眼の長さが短い人)、小柄な女性で遠視の人に多いとされています。この狭隅角の何が問題かというと、狭い隅角が完全に閉じてしまうと、房水の行き場がなくなってしまい、眼の中が水でパンパンになってしまい、眼圧が急激に高度に上昇して、色んなよくないことが起こってしまい、これが“急性緑内障発作”です。そして、この急性緑内障発作を防ぐために行う治療は、水晶体を取り除き薄い眼内レンズに換えることで隅角を広げる目的で行う白内障手術になります(レーザーで虹彩に穴を開けるレーザー虹彩切開術という方法もありますが、僕はほとんど行っていません)。
隅角は直接見ることができないので、隅角鏡というレンズを使って見ることもできますが、最近ではCASIA(カシア)という眼の断面を見る器械(前眼部OCT)を使って評価することができるようになっています。そのCASIAの所見を見ると、隅角は狭いというか、もう既に角膜と虹彩がくっついてしまっているように見え、いつ発作が起こってもおかしくない状況のように思えました。水晶体がまだ柔らかいので、隅角が閉じていても、房水の流れにまだ支障がなくて済んでくれているのかとも考えられるので、このまま、しばらくは隅角の所見や眼圧の値などを見ながら定期的に経過観察を行っていくのでよいのかなと思いました。
緑内障発作の心配があるならばさっさと手術してしまえばよいじゃないか?とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、このような狭隅角症の若い方の白内障の手術には慎重に考えなければならない点もあります。まず、水晶体が柔らかいということは眼の調節力が残っているということなので、白内障手術で単焦点レンズを入れると、調節力が基本的にはなくなり、完全な老眼状態になるので、急に老眼が進んでしまったような感覚になります。また、眼の小さな遠視の人が狭隅角になりやすく、裸眼の遠方視力が良好な方が多いので、手術をすると遠方の裸眼視力が下がってしまうこともあります。こういったことは、白内障が進んでからの手術より、若い時期の軽い白内障の手術での方が感じやすく、不満につながりやすいため、手術する側からしても、手術しにくい心理が働いてしまうところかと思います。なので、積極的に手術しましょうとはいいにくいので、『様子を見ましょう』という選択が提案されやすいのではと思います。ただ、これは本当に考え方で、いつ手術しても見え方としては同じですし、緑内障発作を起こすリスクを抱えながら生活していく不安を大きく感じるのであれば、手術を先延ばしにする必要はないかと思います。また、狭隅角の眼では、水晶体の支え(チン小帯)が弱いことも多く、普通の偏り手術が大変になってしまうこともあり、白内障が進んでからよりは、早い時期の方がより負担が少ない手術ができるというアドバンテージもあるかと思います。
今日の患者さんも手術によってマイナスに感じる可能性があることは十分ご理解いただけ(ただ、頭で分かっていても実際の見え方でどう感じるかの不安はありますが)、発作のリスクはすごく怖いと感じていらっしゃるとのことで、早期の手術も十分選択してもよいのではとお話させていただきました。
比較的若い方での狭隅角の眼の白内障手術の時期は必ずいつすべきだということもないので判断は難しく先延ばしにすることも決して悪い訳ではありませんが、自分にとって何がリスクかをよくご理解いただき、可能な限り遅くならないうちに手術を考えていただけるといいなと思います。
今日も手術、お疲れ様でしたm(_ _)m